不動産会社で賃貸営業を5年していた女性にインタビュー

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不動産営業の女性イメージ

不動産会社で賃貸の営業をしていた女性にお話を聞きました。ノルマの厳しい時代、残業代も付かない中で頑張った5年間で、コミュニケーション力やトラブルへの対応力が身に付いたと言います。若さを武器にしたという営業の裏ワザの話も。

賃貸営業の仕事に就いたいきさつを教えてください。

最初は給料が良くて未経験でも出来る仕事なら何でも良いと思って探していて、手始めに受けたのが賃貸営業の仕事だったんです。

面接で「何でこの仕事をしようと思ったの?」と聞かれた時に「今までバイトしかした事が無かったから、このままではダメだなと思って社員になりたいと思ったのがきっかけです」と話したら「それだけ?」と言われてしまったので、これは面接落ちたなと思いました。

実際社長は落とそうとしていたようなんですが、その場に居合わせた副社長が「この子は多分出来る子だ」と言って採用してくれました。その仕事が始めての正社員としての仕事でした。

特に資格も必要なく、車の運転免許があれば大丈夫でした。私もそれしか持っていませんでした。

遅くまでの残業や厳しいノルマも

賃貸営業の仕事内容を教えて下さい。

部屋を探しに来たお客さんに色々な部屋を紹介して、見たい部屋があれば実際に車で現地に案内して部屋を見てもらいます。

それで入居する事が決まったら、契約書を作成して契約をしてもらい、引渡しの日までに色々な手続きをしてもらいます。

その間に保証人の電話確認や鍵の手配を行い、引渡しを済ませれば一旦終了です。

後は退去時に立会いを行い、退去後はリフォームの手配をして再び募集を掛けます。

他にも賃貸雑誌の物件紹介の記事を夜遅くまで考えたりしていました。

それ以外にも、会社と取引がない大家さんの所へ行って「うちでも紹介させて下さい」と交渉に行って契約を取ってくるというノルマもありました。

賃貸契約自体のノルマは、今はもう無くなったみたいですが、私が勤めていた時は、契約を5件取るというノルマがありました。

達成出来ないと10万円カットされるという罰則もありました。

大家さんとの契約についても、毎月3件取ってくるように言われたので、たとえ前月に10件取っていようと今月が0件なら10万円カットされました。ですから毎月憂鬱でした。

ノルマについては面接の時は「誰にでも出来るノルマだから」と言われていました。

達成できない子は、本当に10万円カットされていました。

普通はそこで辞めてしまう人が多いのですが、その子は最終的に事務員として残っていました。

残業はありましたか?

残業はありました。賃貸の雑誌に載せる為のコメントを書く時は、定時が終わってから書く事になるので、会社の奢りで食事は出るんですが、遅い時は夜中の12時ぐらいまでやっていました。

記事の内容もある程度書いているとワンパターンになってしまって、最後に店長がチェックするのですが、「こんなコメントはダメだ」とダメ出しされましたね。

面白かったのは一緒に働いていた中年の方がいたんですけど、記事の中に必ず「庭からネギを取ってきて」というコメントがあってよく却下されていました。

私は結構文章が書ける方だったので、その方の分までコメントを書いて「ありがとう」とよく言われていました。

この作業が毎回大変なんですが、速く終わったら終わったで別の仕事を任されるのでとにかく辛かったです。

しかも残業代はつきません。面接の時から、残業代は一切出ないと言われていました。だから早く帰りたくて仕方がなかったですね。

ただ皆仲は良かったので和気あいあいとやっていたら12時を回ってしまった事もありました。

それに割と皆残業しているので、帰りたくても帰れない雰囲気でした。帰ろうと試みても周りから「あれやったの?」「これしたの?」と聞かれて、しぶしぶ席に戻って仕事をする羽目になって、帰らせてもらえませんでした。

特に転職シーズンが1番忙しかったです。暇な夏の時期でも、今までにアンケートを書いてもらった人に「今でも部屋を探していますか」と電話を掛けて営業をしていました。

大抵は「探していません」と言われますが、とにかく漁り出すような感じでやっていました。

マニュアルはありましたか?

そういったものは全く無くて、とりあえず先輩の仕事について覚えるという形でした。

それも3回ぐらいしたら「あとは1人でできるよね」という事で独立しなければならなくなりました。

また最初の2~3ヶ月間はノルマのない研修期間が設けられていたのですが、それが終わって半年ぐらい経つと、もうベテラン扱いされるようになりました。

この業界は人の入れ替わりがすごく激しいので、半年いればもうベテランという認識だったようです。

従業員は何人ぐらいいましたか?

1つの営業店舗に5人ぐらいいました。それが5店舗あったので25人ぐらいです。

男女の割合としては男性の方が多いんですけど、女性も徐々に増えてきて、成績もいい人が多かったと思います。

女性の方が外回りでも有利ですし、車で物件の案内をする時でも相談や質問をしやすいイメージがあるみたいです。女性の方がお客さんと仲良くなりやすいのかなと思います。

家賃滞納や鍵の紛失…不動産賃貸営業のトラブル

1番きつい仕事は何ですか?

家賃滞納の電話を掛ける時です。家賃滞納をする人はルーズな人が多いので、電話に出ないというのはよくある事ですし、急に病気になったとか親戚が死んだとか、色々な言い訳をして支払いを伸ばそうとする人も多かったです。

このようなケースがひどくなると退去してもらわないといけなくなるのですが、その事を伝えるのも精神的に辛い所がありました。

割ときついケースの場合は男の人がやってくれるのですが、私が紹介した人で全然家賃を払ってくれない人がいまして、私の紹介なので私が何とかしなければならないことがありました。

何回も電話していたら逆ギレされてしまって「そんなんやったら出て行くわ」と言って出ていかれた人がいました。滞納分は敷金で相殺しましたが、すごく後味が悪かったです。

ほかに困った出来事はありましたか?

「今の家賃が払えないので別の部屋を探して下さい」と言われた時にはさすがに困った事がありました。

恐らく次の部屋を紹介しても滞納するだろうと思いながら、ノルマがあるので滞納されるのを覚悟で保証人をきっちり決めてから紹介したりしていました。

正直大家さんにとっては迷惑だったと思います。ノルマが厳しいとそういう事も多くなるんじゃないかなと思います。

あとは深夜に鍵をなくしたという連絡をされる事ですね。

部屋の管理は管理会社が入るか、入ってない場合は直接大家さんが管理しているのかのどちらかなので、どちらかに連絡しないといけません。

大抵の場合は住んでいる人は知らないので、私がどちらか見極めて連絡をする必要があったので大変困った事があります。

あとはタバコを床や壁に落として焦がした跡を自分で隠そうとする人も困りますね。退去後に分かったりするのですが、そういうのは正直に言って欲しいです。

お客さんとのトラブルについて私は少ないほうでしたが、一度、お客さんを怒らせてしまって「社長を出せ」と怒鳴り込まれた事もありました。

どちらかといえば会社でのトラブルが多かったと思います。

度々トラブルを起こす後輩がいて、社内会議に発展した事がありました。対策を話している中で1人の女性社員が「人間失格」と言い出して「営業じゃなくて人間がですか?」と喧嘩になった事がありました。

社内では言いたい事を素直に言って、あとはすっきりするという社風だったので割りと仲が良かったんですけど、お客さんには好き勝手言う訳にはいかなかったので、こちらが堪えて話を聞く事が多かったです。

部屋の隣同士でトラブルになった時も、片方の人が「隣がうるさいから出て行ってもらってくれ」と言って、それから揉め事に発展してお互い言い合いをしていたら、いつの間にか私が悪いと言い出して困った事がありました。

でも自分が悪いと言った方がお互い上手くいくのかなと思って、結局私が謝りました。

どうやらお互い引っ越せない事情があったようなので、私が引く事でうまくいったのならよかったかなと思っています。

普段着の営業が警戒心を和らげる

営業の成績をあげる工夫はしていましたか?

営業の際は、ある程度近くまで車で行ってから地図を片手に歩いて探し回ります。

初めて行く、取引先の営業では、先輩達が取引のない物件にマーキングをした地図を持って現場に行って、その辺りの家に大家さんの居場所を聞いたりしていました。

ただ営業で来ていると思われると怪しまれるので、学生みたいな格好で行っていました。

尋ねる時も学生のふりをして「部屋を探しているんですけど、大家さんに直接会って話を聞きたいので連絡先を教えて下さい」と尋ねると、皆親切に教えてくれました。

これが私にとっての大家さんの連絡先を聞く為の技でした。

実際大家さんの連絡先を聞きだすのは大変な事でして、特に営業と分かると教えてくれなくなるので私はそういう方法で聞き出していました。

若いからできたことですね。でも、その方があまり警戒されずに済みます。

いかにも営業ですという感じのスーツで行くと、何かセールスに来たと思われて門前払いされてしまう事が多いのですか、素人っぽくして行くと「何かあったのかな」と思われて出てきてくれますので、そういう点は有利だったと思います。

このような営業のノウハウは皆で共有しようという面があったので、会議でその技を説明したら、皆私服で外回りするようになりました。

賃貸営業をしてよかった事を教えて下さい。

部屋を借りるという点で、お客さんと貸す側と両方の立場で見る事が出来るので、色々比較が出来て良かったです。

賃貸営業をしていると引越しの手配もしなければいけないので、引越し業者が「うちにやらせて下さい」という営業的な意味で、私の引越しを無料でやってくれたりしました。

それからコミュニケーション能力も養われましたし、トラブルに対処する方法を身に付ける事が出来ました。

賃貸業者との上手な付き合い方

ネット上の賃貸物件について教えてください。

ネットで扱っている物件は、他社とかぶっている内容もありますが、出来るだけ独自の物件を載せるようにはしています。

これは大家さんがどこに仲介を任せているかによって異なってきます。

複数の会社に任せている人もいれば、専任で1つの会社に任せている人もいて、大家さんの意向によって他社と同じ物件を扱っている事があります。

その為、同じ物件でも家賃が微妙に違う事があって、例えば他社の方の家賃が安い場合「うちもその値段でいいですか?」と大家さんに電話して調整しないといけないので、情報誌はくまなくチェックしていましたね。

家賃は大家さんと私達が相談して決めるんですけど、店によって「今月中に入居者を決めるから1000円安くして下さい」という風に交渉をするんです。

そうすると同じ物件なのに家賃に差が出てくるので、その会社が契約を取る可能性が高くなります。こんな感じで家賃が変わってくるんです。

では家賃や諸費用の値段交渉は可能ですね?

物件にもよりますが、大家さんがうちの会社とだけ取引がある場合は交渉が出来る可能性があります。

その場合、大家さんが他社に報告する必要がないので、交渉に応じやすくなります。

また、長い間部屋を空けていると家賃収入がなくて損失になるので、安くしてでも入居者を入れようと考えるケースもあります。

その場合は家賃を下げた事は他言無用といった条件が付きます。

窓口で値段交渉する場合は、あまりに態度が横柄だったり、しつこく「安くしろ」と言われたりすると、正直やる気が無くなるので、お客さんの方もある程度節度を守ってコミュニケーションを取ってもらいたいと思います。

交渉したいと考えているなら、部屋に入居する気がある事を伝えた方がいいと思います。

例えば「この部屋、すごく気に入ったので入居したいけど、家賃がちょっと高いのでもう少し安くなりませんか」と言えば、営業の人も好意的に対応してくれるのではないかと思います。

収入の低い人が賃貸契約する事は厳しいですか?

厳しいですね。やはり収入の割合から家賃が払えるかどうか判断するので、家賃が高い所に収入の低い人を入れると滞納の可能性が高くなりますから、収入に見合った物件を紹介する事になります。

収入が低くても他からお金を貰っていたりすれば状況は変わるかもしれませんが、基本的には収入で審査されます。

私が働いた最初の会社は、大家さんの許可があれば入居出来たのですが、2つ目の会社は収入だけでなく、クレジットカードの審査も通すので、カードがブラックの人は借りる事が出来ませんでした。

ですから会社によって賃貸契約のしやすさは変わってきます。

よい物件を見つけるコツを教えて下さい。

自分が借りたい物件をあらかじめ営業の人に伝えておいて、こまめに電話して「いい物件ありましたか?」と確認したり、新築物件はインターネットで先に公開したりするので、インターネットの物件情報を確認しておくのもいいと思います。

最新の情報を入手出来るのは店舗なので、店舗で物件を確認すればネットに上げる前の情報を見る事が出来たりします。

ですからこまめに店舗に足を運んでいると店側も「この人は本気で物件を探しているんだな」と思うようになって、いい物件があった時に1番に知らせてくれるようになります。

「真剣にいい物件を探したいんだな」と思えば協力してあげたくなりますね。

河田憲二氏
当記事の監修者、河田憲二氏からアドバイス

不動産業界では「先輩の仕事を見て盗む」という文化の会社が多いのは事実です。

特に地場の賃貸業者、仲介業者なんかはマニュアルなど一切なく、「車の運転係」「役所の調査係」なんていう雑用の延長的な仕事からいつのまにか「数字を作れ」という立場に進化していきます。賃貸仲介も売買仲介も個人プレーで数字を作ったものが正義という風習があるので、どうしてもノウハウを教えるという文化が浸透していません。

ただしその分やっただけの見返りがあるのも不動産業界の良いところかもしれません。

最後に賃貸業者との上手な付き合い方ですが、業者の担当者も人間ということを忘れないのが一番です。

■監修者プロフィール
河田憲二氏
株式会社AlbaLink代表取締役
株式会社グリーンライト代表取締役
2021年に11期目を迎える不動産買取再販会社の代表。不動産賃貸業(大家業)として不動産業界に関わることになり、賃貸仲介会社を買収して業者成り。
現在は賃貸業、管理業、買取再販業を営む不動産の専門家。

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